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「菰を被りて夏を待つ」を読む

「菰を被りて夏を待つ」西村賢太(「無銭横町」所収/文春文庫)を読む。

 西村賢太は暫く読まないでいたら、免疫が落ちてきた気がして、すかさず読むことにした。西村賢太を読むとなぜか気がすさむので日常的に読むのは避けている。けれどもどうしたものか読まなければ読まないだけ澄んでくるはずなのに、濁りが幾分ほしくなるときもあるという相反した欲求が募るときもある。今回もそうした気分でつい読んでしまう。

 この話は貫多が20歳の頃の話。何度も引っ越し(もちろん夜逃げ)を繰り返し、今回まともに金を払ったのちに引っ越しをしたときの回想がベースで、田中英光の本が肝になって展開する。田中英光はちゃんと読んだことがないので今度しっかり読んでみよう。田中英光は太宰の弟子みたいな人で、太宰が自殺した後、追って自殺した。なんだか現代ではありそうにない純文学の光と影を読めそうな気がしてくる。そんな突飛に感じる文学の世界もまた興味があるが、その世界観を西村賢太の私小説の中で味わせてもらっている。

 貫多はこの時点で8回目の引っ越しだが、自分も学生の頃は引っ越しが多かった。といっても5回くらいか。半年で引っ越しすることも2回くらいあり、引っ越しのためにバイトするような感じだったときもあった。貫多とは違うけど一か所に居つけないところが当時はあった。家賃に払う金なぞ、ねえっ!とうそぶく貫多の気持ちがなんとなくわかる気もする、そんな読書感であった。

 今日の国分寺は曇り時々霧雨時々晴れ。

 今日流れているのは、ピンク・フロイドです。
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by yoshizo1961 | 2020-06-25 14:35 | 本あれこれ | Comments(0)
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