カテゴリ:創作( 11 )

時空インタビューその2 江戸川乱歩の巻【後編】

 昨日の続きです(27日のブログからお読みください)。

 
 ああ、ここにございます。文庫版ですが。乱歩先生の「屋根裏の散歩者」はずっと読み継がれております。

 ん?なになにっ?なんじゃこの版は!こんなもの見たこともない(いやいや、これは本当に時空を飛んでしまったのかもしれんぞ。なんていうことじゃ、信じられん・・・)。

 え?ご存じない?ああ、そうでございますよね、現代の版ですから。ハハハ。

 お、お、そうじゃな、そういうわけじゃ、ハハハハハ。ところでこの本、記念にいただいても?いやいや、記念にじゃよ。

 もちろんでございます!お持ちください。ただ現代のものでございますので、お戻りになってから誰にもお見せしないようお願い致します。

 ん?そうじゃな。わかっておる。誰にも見せないようしまっておくよ(締め切り過ぎてしまって、編集者にせっつかれているあの雑誌の原稿に使えるじゃろうかの。わしの作というのであればパクリにもならんわけじゃしのう)。

 乱歩先生、また時空のはざまが開きかけております。もっとお話をお伺いしたいのですが、この機会を逃すとまたいつ開くかわかりません。さあ、こちらへ。

 う、うん。わかった。あー、その、わしがここに来たことはナイショにしておいてくれるか?あとでパクっただのなんだのと言われてもかなわんのでのう・・・お、おっと、いやいやそういうことでなくて、ハハハハハ・・・。

 わかっております。誰にも他言いたしません。わたくしも先生の「屋根裏の散歩者」が読めなくなると悲しいので。

 おお、そうか、よろしく頼む(こ、この男何者じゃ?)。

 さ、こちらへ。わたくしが背中を押しますので、おもいきり踏み込んで飛んでください。もといた時空の座標に戻ることができます。さっ、いまです!

 唐突に稲光がしてひかりの渦巻きが乱歩先生を包み込む。時空の扉を超えて過去に戻った先生は、さっそく持ってきた文庫版の「屋根裏の散歩者」を原稿用紙に写し終えると、遠い眼をしてひとりごちた・・・また行ってみたいもんじゃのう、あの古本屋へ。  終


 今日の国分寺は曇り時々雨。明日は木曜日なのでお休みです。また金曜日に。

 今日流れているのは、小さな恋のメロディ・サントラです。
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by yoshizo1961 | 2016-09-28 16:07 | 創作 | Comments(0)

時空インタビューその2江戸川乱歩の巻【前編】

 本日は時空インタビュー第2弾です。江戸川乱歩編の前半です。



 ううー、ここは・・・?ここはどこじゃ?わ、わしはいったいなぜこんなところにおるのじゃ?

 あ、そのお顔!もしや乱歩先生、江戸川乱歩先生じゃありませんか!?

 んー?あんた誰じゃ?

 はい、私はこの店の店主、まどそら堂の店主です。さきほど稲妻のような光が店内をつらぬいて、そのあとに先生がそこにいらっしゃったのです。あ、いや、実はこの店は時空のはざまに建っているようで、たまに時空を飛んできてしまう方がいらっしゃるのです。古本屋という職業柄、作家さんが現われることが多ございまして。

 なに?時空のはざまと?にわかには信じられんが、どうも夢でもなさそうじゃし。それにこんな店は見たこともない、いや、何もかも見たことがないものばかりじゃ。いや、それにしてもよくわからん、どうなってしまったのじゃ。

 たぶん先生がそうとは知らずに時空のはざまに巻き込まれる何かをされたんだと思われますが・・・。

 なにか・・・じゃと?うーん、ん?あれか?いやいや、まさか・・・。

 なにかこころあたりでも?

 うむ、じつはさっき厠で踏み外して、その、ははは・・・
 
 えっ?まさかその足元が濡れていらっしゃるのは・・・

 いや、ちがうのじゃ、これは・・・まあ、いいとしよう。それでここは古本屋なのじゃな?

 そうでございます、先生。実は先日も夏目漱石先生がおみえになりました。乱歩先生にもお越しいただき光栄至極でございます。

 なに?夏目漱石じゃと?(うーん、この男、頭がおかしいのかもしれん・・・ん?まてよ、これは使えるかもしれんぞ、時空を超えたミステリじゃな、ふふふ)。
 なにか?それより先生、今は何を書かれているのですか?

 ん?いま?いまは・・・(いや、まだ正体もワカランやつに話してはいかん、これは周到に仕組まれた芝居かもしれんぞ。わしの新作のネタを横取りしようというたくらみかもしれん・・・)いや、まあ、そうだな、そうそう、短編、短編を書いておるのじゃ。

 短編?先生は短編もたくさん書かれていますよね・・・。

 うん?そうじゃよ、その、そうじゃな、その・・・散歩、散歩の話じゃよ。

 散歩?それってひょっとして「屋根裏の散歩者」ですか?あの有名な!

 ん?有名?(なんじゃそりゃ、でも屋根裏の、ってところがいいじゃないか、こりゃいただきだ)うん、まあ、そうじゃな。つていうかなんでじゃ?

 では先生は大正14年前後の頃からいらっしゃったんですね!「屋根裏の散歩者」は大正14年発表ですもんね!

 そう?ああそうじゃよ(うーん、この男は何を言っておるのじゃろう、ひょっとしてホントにわしは時空を超えたんじゃろうか。それにしても屋根裏の・・・というのはいける!)。
                            明日の後編に続く

 今日の国分寺は晴れ。

 今日流れているのは、トウヤマタケオです。
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by yoshizo1961 | 2016-09-27 14:52 | 創作 | Comments(0)

続「夏の終わりに見る夢は」

(昨日からの続き) 

 まだ居眠りから覚めていない主人に合わせて、ああ、そうですかとひとりごちながら、ゆっくりと店内を見渡す。ほんとによくできている。使っている什器は骨董で揃えられるけど、この壁や柱、天井などのエージングはハンパじゃない。ここまでレトロに仕上げる技術は相当のもんだよ・・・。

 平台に目を向けるとどこかで見たような本が・・・。ん?これって。
そこにあったのはどこをどう探しても出てこない栗田信の『発酵人間』!まさか・・・。
驚きを超えて妙に冷静な面持ちで手に取ってみる。本物だ。しかも美本。こんなレア本がなぜ・・・。
「あ、あの、これはいくらですか?」恐る恐る訊いてみる。
「ん?あ、ああ発酵人間ね。値付けしてなかったっけ?そうだね、じゃあ60円でどう?」
「・・・60円?」
うそだろ、やっぱりこのオヤジどうかしてるよ。帯付き美本なんだよ、相場で40万円はするのに!

 たったの60円ぽっちで何も知らない主人をだまして買ったような気にもなり、良心の呵責を感じはしたが『発酵人間』の魅力には抗えなかった。両手で抱えながら来た路地を戻る。おぼろな月明かりがあやしく足元を照らす。いやな汗が背中を伝う。

 路地をさ迷いながらもと来た道をたどろうとするが、進めば進むほどどこを歩いているのかわからない。おれはどうしてしまったんだろう。『発酵人間』をしっかり胸で抱え直す。これだけは落としてはいけない・・・。

 どこをどう歩いて帰ってきたのか自分でも判然としないが、なんとかお店の帳場まで戻ってきた。やれやれ。変な夜だな。大事に抱えてきた『発酵人間』を机に置こうとして、手に何もないことに気づく。え?

 足元に朽ちかけた葉っぱが一枚ひらひらと舞い落ちる。あー、ばかされたか。それとも時空の狭間にはまって昭和の時代の夢でも見ていたというのか。

 何事もない、誰もいない店内で、ああ、そうだ、おれはいまそんなことを考えていただけなんだと気付く。朦朧とした意識で妄想していただけ・・・?そういえばあの古本屋のおやじ、誰かに似ていたな。誰だっけ?   (終)

 
 今日の国分寺は晴れ。まだ暑いです。

 今日流れているのはまたしてもトヤマ・タケオ。『Waltz In March』です。
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by yoshizo1961 | 2016-09-06 13:39 | 創作 | Comments(0)

「夏の終わりに見る夢は」

 もうすぐ秋だというのに、こうクソ暑いと妄想も暴走する。

 あまりの暑さに朦朧としたまま夜道をフラフラ。いつ店を出たのかどこをどう歩いたのかもわからず。いつのまにやら頭の上に電信柱の裸電球がひとつ。電信柱と寄りそうようにすすけた板でできた昭和な塀。塀の奥、路地の向こうに、一軒の古本屋が・・・。

 こんなところに古本屋なんてあったっけ?開けっ放しの引き戸。昭和30年代にあったような木造平屋。こんなレトロな建物でしかも古本屋?いぶかりながらも古本に引き寄せられるように敷居をまたぐ。なんだか梶井基次郎の檸檬に出てくる本屋のよう。

 平台にはヤケがきつい古本が並び、壁の棚もほとんど骨董だし、いや、ここは昭和、それも30年から40年代のリアルといってもいいレトロ古本屋だ。それにしてもよくできてるなあと見まわしてみると奥の帳場にまん丸の銀縁眼鏡をかけた店主らしき男が居眠りをしている。かたわらにおなじく居眠りする猫。

「すみません・・・」かすれた声で訊いてみる。ここはいつから?
いままで居眠りしていた丸眼鏡の主人がむっくりと顔を上げる。 
「・・・・・・?」
あ、その。
「・・・ああ、申し訳ない、眠ってしまったようです。誰も来ないのでつい」
「こちらはいつからここに?いままでまったく気が付かなかったものですから」
「うちですか?いつからって・・・かれこれ3年前くらいですかね。昭和36年の5月からですから・・・」
「はい?昭和36年?」
「ええ」

                             (明日に続く)


 今日の国分寺は晴れ。明日も晴れかな?

 今日流れているのはタケオ・トヤマ。はまりました。
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by yoshizo1961 | 2016-09-05 14:36 | 創作 | Comments(0)

クイアバの奇跡

 日本時間で朝の5時。現地クイアバでは午後4時。まだ日の入りまでには一時間以上あるこのバンタナルアリーナで、1次リーグ・C組の最終、コロンビア戦を控えた日本代表の選手たちが緊張冷めやらぬ表情のままピッチに立ち、キックオフの笛を待っていた。

 思えば鳴り物入りで迎えたザッケローニ監督のもと、4年間というものそれなりの結果を出してきた日本代表だったが、本番のワールドカップでは1次リーグ2試合ともに本来の実力を出せないまま、今日のコロンビア戦を迎えることとなった。既に本選突破を決めているコロンビアは、エースのロドリゲスを先発から外すという余裕をみせていた。

 日本の先発陣は前の2試合とほぼ変わらない布陣であったが、ワントップには大迫ではなく柿谷曜一朗。柿谷は1次リーグ最終戦で、やっともぎ取った先発のポジションを絶対に離さないという闘志を胸に、はやる気持ちをおさえながらこの試合に臨んでいた。この試合に負けたら予選敗退。たとえ勝っても同時刻に行われるコートジボワールとギリシャの試合で、コートジボワールが負けか引き分けでないと予選突破ができないという窮地に追い込まれていた日本は、他力本願ではあっても最善の努力を惜しまず、やれること以上の力を出し切ってこの試合を勝ち抜くしかなかった。

 キックオフ直後、長谷部の足元にころがってきたボールを、目も覚めるようなキックで前線に蹴り上げると、そのボールは本田の胸元をすり抜け、前で張っていた柿谷の頭にドンピシャで合い、振り向くように頭を振ったかと思った瞬間、既にボールはゴールに突き刺さっていた。

 歓喜。わずか数秒で先制点をもぎ取った日本。柿谷の興奮は日本を奮起させた。その後も前からガンガンと攻めまくる日本。押し込まれたコロンビアは、前半にもかかわらずロドリゲスを入れざるを得なかった。すると少しずつ流れが変わり始め、コロンビアがボールを支配する時間が長くなっていった。同点ゴールが入った瞬間からまた日本が下を向き始め、そのわずか数分の後に逆転ゴールを決められた。

 逆転ゴールを決めたロドリゲスの周りにコロンビアの選手が集まり、歓喜のパフォーマンス。いよいよ下を向き顔が上がらない日本。そのまま前半が終了した。ピッチから控室に向かう選手たちの表情はほとんど色をなさず、口を開く者も皆無であった。

 当初の予定も狂い、どうにも身動きできなくなったザッケローニは、もうほとんどやけくそ気味に選手たちの目の前でコロンビアの選手名簿をビリビリに破り、頭上にまき散らした。それを見た選手たちはジレンマを感じつつも自らを鼓舞するようにわけのわからない声で吠えはじめ、一種異様な雰囲気のまま後半戦になだれ込んでいった。

 ピッチに現れた日本の選手たちの眼は異様に吊り上がり、まるで野犬さながらであった。その異様な雰囲気のまま後半が始まり、同じく異様な眼をしたザッケローニが後半早々に選手交代の切符を切った。岡崎に変わりピッチに入った清武弘嗣。清武のまなこも瞳孔が開いたままのような異様な面持ちで、コロンビアのディフェンダーたちも恐れをなして寄せがあまくなった。

 香川、清武、柿谷のセレッソトリオがまるで妖怪人間ベムの三人のようにピッチ上で絡み合い、妖しいパスの応酬でコロンビアゴールを脅かし始めた。が、攻め続けながらも決定打にかけるゴール前。陽が傾きはじめ、夕闇が迫る魔の時刻、夕陽をそのまなこに受けた瞬間、柿谷のジレンマはクイアバの夕闇に舞い上がり、飽和状態ぎりぎりのパワーがいきなり解放された。香川から清武、清武からの地を這うようなパスを受けると怒涛のフォワードと化した柿谷が左足を振り切ると、すでにボールはコロンビアゴールを突き破っていた。

 気が付いてみると立て続けに3点を奪い、4対2のスコアでコロンビアに勝利した。試合終了と同時にコートジボワールとギリシャが引き分けの一報がもたらされ、日本は1次リーグ突破を決めたのであった。試合後、憑き物が落ちたかのように放心する選手と監督の表情を見て、こういうこともあるのだなあと、この劇的な試合をその後「クイアバの奇跡」として語り継ぐこととなった。

 ・・・・・・なんてことになればいいね。あー、疲れた。ほんと、勝ってくれよ!

 今日の国分寺は曇りから雨。空が真暗になってきた。雷なってるよ!しつこくお知らせ。明日の晩は「虎の穴」。参加希望の方はお店にご連絡ください(コーヒー、お茶菓子付き。参加料;一般500円・学生ドネーション)。

 今日流れているのはマイク・オールドフィールド。「チューブラー・ベルズⅡ」です。
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by yoshizo1961 | 2014-06-24 15:10 | 創作 | Comments(0)

まどそら堂しいかちゃんの空想列車怪奇ミステリー編「怪人蝶」後編

 (昨日から続き)



「んなぉぉぉぉぅっーーーーーーーーー!!」

 ええっー?二十面相がご主人に向けてステッキを投げつけようとしたその瞬間、どこに隠れていたのか、まどそら猫が雄叫びとも悲鳴ともつかぬ泣き声をあげながら二十面相の腕に飛びかかった!腕を引きちぎるくらいに噛みついた痛みに、唐突にあげた悲鳴こそは二十面相のものだった。

 猫ちゃんー!いいぞー!いいところで出てきたわー!って、居たならさっさと出て来いよー!その反動で床に振り落されたわたし。二十面相は痛みに顔を引きつらせてもんどりうつと、まどそら猫を振り払い、今度はほんとに怒りの表情をして立ち上がった。

「うーっ、ゆるせない、お前たちー!わたしを本気で怒らせたなー!」

 って言ったって、わたしが何したって言うのよー!とんだとばっちりだわよー!

 怒りに震えた二十面相はもうめちゃくちゃに暴れだして、お店の中はもうボロボロ、それよりご主人も猫ちゃんも、絶体絶命状態!もちろんわたしも!こんな時はどうしたらいいの、落ち着くのよ、落ち着いて、しいか。何か、何か手だてがあるはずよ。何か、何か忘れてる何か、ん?忘れてる?んん?そう、そうだーーーーーー!忘れてたー!

「ごしゅじーん!呪文よ!呪文をーーーーー!」

 掠れながらも大きな声が出たわ。そうよ、彼、彼が。彼が助けてくれる?

棚の下敷きになったままで二十面相の無暗な攻撃を受けていたご主人は、わたしの言うことを瞬間的に理解して言葉を発しようとしたけれど、その時には意識を失う寸前だった。

「むら・・か・・み・・・」

 えっー?なんていったの?むらかみ?それが呪文なの?

「む、む・・・ら・・か・・み・・・・りゅ・・う・・・」

 ええっー?むらかみりゅう?むらかみりゅうが呪文なの?ほんとに?
ご主人、力つきて意識を失ってしまったみたい。わかったわ、待ってて。わたしが彼を呼び出してみる!

「む・ら・か・み・り・ゅ・う」

 ? 出てこないじゃない、ん?もう一度。

「むらかみりゅう!」

 だめ?呪文じゃないのー?

 さっきからぶつぶつひとり言を言っていやがるのは、おまえかー?って、キャラが悪いやつ風に変わってきた二十面相がこちらに近づいてくる。うー、まずいよー。考えて、考えるのよ、しいか・・・呪文・・・じゅもん、むらかみりゅう、村上龍・・・。うん?そうだわ、少し前にご主人のブログで出てこなかった?村上龍の話、コインロッカー・ベイビーズの話で(2014/1/19ブログ参照)。そうよ、あれは、呪文よ!・・・思い出した!みぎぶたみぎぶ・・・

「考えが変わったよ、もうここで始末してやる、おまえもみんなもすべて・・・」

 二十面相の手が伸びてくる。いやーん。ああ、それより呪文、「みぎぶたみぎ・・・」

 二十面相が引きつった表情のままでわたしの腕を掴み、ひょいと持ち上げるといきなりお尻を蹴り上げた。ああ、もうほんとにだめ、信じられない、どうなってるの、しいか、もう絶体絶命。蹴り上げられた痛みがすごすぎて逆に痛くない。もうおしまい?このまま起き上がれない?意識が飛ぶ、飛びそう、もう限界・・・。

 蝶が、さっきの蝶がまぶたの裏で飛んでいる。蝶?そうだ、蝶だ!最後の、さいごのちからで言ってみよう、これでだめならもうお終い。言ってみて、しいか。

「右豚右豚左豚右豚右豚時計蝶!」

 あははは。風が歌ってる。あはははは。あの人も、わたしも。この太陽の下、また追いかけっこね。至福の時間よ。わたしたちには未来がある、誰にも言わないでね。二人の秘密。でもここはどこ?あなたはだれ?そう、あなたは、あなたはわたしのやさしい人、あはははは。つかまえて、わたしを。あなたのそのたくましい腕で。光を、ひかりを吸い込んで歌うわ、あなたとわたしの歌を。わたしを離さないで、わたしをつかまえていて。

・・・あぁ・・・どこからか声がする、逢いたかった、懐かしい声、あぁ・・・

・・・しいか、しいか。眼を覚まして。・・・僕の声が聞こえるかい?

 突然、眼が覚める。意識を失くしていたんだわ。えっ?でもどうなったの?二十面相は?今の声、今わたしと一緒にいた人は?

 しいか。しいかちゃん。

 え?

ゆっくりと顔を上げる。わたしの前に誰か立ってる。誰かが。え?

「しいか。眼が覚めたかい?もっと早く呼んでくれればよかったのに。なんでこんなになるまで僕を呼ばなかったの?」

 答えられない、ううん、そうじゃないの、うれしくて、あなたにやっと逢えてうれしくて、声にならないの。「まどそら堂で恋を探そう」で出会って以来、何年たったかしら。ずっと、ずっと逢いたかったのよ・・・。

「ひょっとして呪文を知らなかったの?ご主人教えてくれなかった?」

 そう言うと棚の下敷きになったままで動けないご主人のそばに寄った彼が、軽く左手を振ると散らばった本が音もなく棚に収納され、逆回転みたいに壁に吸い寄せられて元に戻ってしまった。魔法が使えるのね、わたしの彼。うそみたい。

「しっかりして、ご主人。ケガしてない?」

そう言いながらご主人を抱き起す彼。・・・すてき。

「・・・だいじょうぶ、ありがとう、王子。久し振りだな」
「うん、それよりご主人、しいかに呪文を教えてなかったのかい?ぼくは彼女が呼ばないと出てこれないんだよ、いまは彼女の部屋住みだからね」
「そうだったな、ごめん、忘れてたよ。ところで、あいつは?二十面相は?」

 あぁ、と言いながら彼が右手をくるりとひねると、その指先にあの極彩色の蝶が。ご主人はすぐさま床に落ちていた虫かごを拾い上げると、無造作に蝶を放り込んだ。それを見ていた彼が、ちょっとおいたが過ぎるね、この人、って言いながら蝶に笑いかけてる。どうやって倒したのか見たかったな、でも見ちゃったらかっこいい彼の勇ましい姿にまた惚れ直しそう!

「そろそろ戻るね。じゃあね、しいか」

 えー、もう行っちゃうの?逢えたばかりだっていうのに。それにわたしだけ意味がわかってないの。まどそら猫をしばらくかまっていた彼が、じゃあ、ってひとこと言ったかと思ったら小さな煙とともに消えてしまった。あーあ、行っちゃった。

「・・・ご主人、ちゃんと説明してください。わたしさっぱりわかりません、どうなっちゃってるんですか?」
「うーん、そうだね、まぁ、今日のところはなんだから、また明日ってことで」

 そう言ってはぐらかそうとするから、そういうわけにはいきませんって強く言いながらにじりよると、ご主人も観念したのか、それともほとほと疲れたのか、じゃあ、そこ座ってと、椅子を拾い起す。向かい合って座ると(ご主人に叩かれて、二十面相に蹴られたお尻が痛い)ご主人、おもむろに語り始めた。

 ・・・・・・というわけなんだよ。信じられないだろうけど、それが真実なんだ。けれどこれは誰にも言ってはいけないよ。しいかちゃんの胸の中にだけ収めてほしい…。
そんなー、無理。黙ってられないよー、それに信じられないよ、そんなお話!みんなだって聞きたいでしょ!勘弁してー!

 結局その日は早仕舞いして、わたしもまどそら猫と一緒にアパートへ帰ってきた。ご主人、買取のお宅に電話して日にちを変えてもらってた。確かにそれどころじゃなかったわね。でも。でも信じられない。ご主人の言った言葉を反芻してみる。・・・やっぱり無理。いったいそんなお話だれが信じるっていうの?そうだ、彼に聞いてみればいいかしら。ちゃんとお話してないし。あっ、だめだった。ご主人こう言ってたわ、彼を呼び出す呪文はそのつど変わるって・・・。それを知っているのはご主人で、結局また聞き逃しちゃった。あーあ。

それから数日後。お店もきれいにかたずけて、いつものまどそら堂に。ご主人もいつも通り。納得できていないのはこのわたしと読者のみなさんよ。そうでしょ、みんな。今日はご主人の口からみなさんにちゃんと説明してって言うつもり。ちゃんとわかるようにね。

「ざーす」

「ざーす」

 うん、いつもといっしょね。ご主人、って声をかけようとして。・・・かけようとして。フリーズ。後頭部、ご主人の後頭部の下、首筋に。

 えっ?


(おわり)


以下、「まどそら堂しいかちゃんの空想列車・SF編」に続く!一挙に謎解き!期待して待て。ポッポー!

 今日の国分寺は晴れ。ほんといい気持だね。明日は木曜日。まどそら堂は定休日です。金曜日にまたお会いしましょう。

 今日流れているのはビートルズ。久し振りに「アビーロード」を。
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by yoshizo1961 | 2014-04-23 13:58 | 創作 | Comments(0)

まどそら堂しいかちゃんの空想列車怪奇ミステリー編「怪人蝶」中編

 (昨日から続き)


 ここはどこ?あなたはだれ?・・・ってどこかで聞いたようなせりふ・・・って言ってる場合?まだ大丈夫、まだ意識があるわ、ほんの少し、でももう飛んじゃいそう・・・どこかに、どこかに掴まらなきゃ・・・落ちてしまう・・・。蝶が、極彩色に輝く蝶が、わたしの視覚を奪ったままどこか知らないところに連れていこうとしている、ああ、でも何故?どういうことなの?ほんとにほんとうに意識が途切れそうになった瞬間、わたしの右手に何かが触れる、それは優しいあの人の手、あの人に連れられて行くのならどんなところでも怖くない・・・。

 うーん、ここは、ここはどこ?さっきといっしょ?同じ場面をループしてる?どうなっちゃてるの、でも気持ちがいい、風が吹いてる、草原を走ってる、あの人と。あの人?わたしが先に行くのよ、あははは。もぅ、あははははは。つかまえて、わたしを、わたしをつかまえて。あははははは。つばの広い帽子を大空に向けて投げるわ。あなたが取ってね、この大空にそのたくましい腕を伸ばして、わたしが投げた帽子を。あははははは。あの森まで追いかけっこよ、追いつけるもんですか、だってわたし、お空も飛べるのよ、あはははは。つかまえて。あはははは。あはははは。

「しいかちゃん!行っちゃだめだ!しいかちゃん!」

 ご主人の声?なに言ってるの?なんでご主人がいるの?今いいところなのに邪魔しないで、今、いま、いま?だって今あの人と、あの人?誰だっけ?

「しいかちゃん!眼を覚ませ!しっかりしろ!」

 何だかご主人が何か言ってるみたい。ん?痛っ、痛いわよ、ちょっとぉ、お尻叩いたわね!うん?痛いわよって、痛ったー!・・・って、ん?え?なに?急に、いきなり意識が戻ってきたわ。どうなってるのよ、いったい!

 ご主人がわたしのお尻を思いっきり叩きながら誰かと向き合ってる。わたしたちの周りに本が散乱して足の踏み場もない状態、さっきまで格闘していたみたいに肩でぜいぜい息しながら左手に網を持ち、右手でまだわたしのお尻を叩いてるご主人、もう、痛いって!もう意識戻ってます!いったいどうなってんの、この人誰?

 その時ご主人と睨み合っていたそいつがわたしに視線を移した。ああ!あのイケメン!あのイケメン男子!・・・こいついったい何者?

「意識を取り戻した?ちぇ、もう少しだったのに」

 ちょっと、ちょっと、なに言ってんのよ、あんた一体何者なの?このしいかちゃんに何しようってのよ?・・・気持ちはそう毒づいてるんだけど、体がしびれて上手く動けない。それにさっきの蝶は、どこにいったの?っていうかさっき見た夢?の中の人って誰だっけ?

「それは俺さ、一緒に追っかけっこしただろ、ははははは」

 えー、なんでわたしが考えてることがわかるの?っていうか、さっきの人はイケメン男子?えー、そんなー。

「しいかちゃん、じっとしてろ、こいつの話も聞いちゃだめだ」

 ご主人はそう言うと整えた息を溜めるようにかがんで、わたしの前に出る。わたしはまだ動けない。

「ふん、小林くん、いや、小林少年、古本屋の店主にばけてどうするつもりなのかな?いつの時代でも君は私の邪魔ばかりしてくれるけど、今度はもう許さないよ」

 イケメン男子がそう言うか言わないかのうちに、ご主人飛びかかって行っちゃった。左手に昆虫採集用の網をまだ握りしめているから、飛びかかってもうまく捕まえられない。っていうか、その網何なの?あー、でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!どうにかしなくちゃ、まだからだが動かない!あー、ご主人やられっぱなし!力の差がありすぎよ、あっ、網がイケメンの頭にすぽっとはまったわ、イケメン苦しそう、そこよそこだわ、やっちゃえー!

 頭を押えながらもがきだしたイケメン男子。見る見るうちに表情が変わっていく。苦しむ声が何かを囁いている、えー、なんか黒い煙がイケメン男子の周りに立ち込めだした。イケメン男子のかたちが変わっていく、それなにー?黒マントに黒マスク、バットマンのなりそこないみたいな恰好になっちゃった!いつの間にかご主人の網も引きちぎられて棒しか残っていない。

「ふふふ、小林少年、私に勝てると思っているのかい?時代が変わってもいつまでも子供だね、君は。君がこの怪人二十面相に勝てるわけないだろう!」

 っていうか、二十面相って、ちょっと待ってよ、これってなんかのお芝居?意味わかんないんですけど。ご主人は小林少年なのね、はいはい。って言ってる場合かー!

 棒を投げ捨てると、ご主人思いっきり体ごと二十面相?にぶつかって行った。けれど鋼みたいに固くなったボディを見せびらかすように二十面相が体をひねると、いきおい余ったご主人はビンテージコミックスの棚に激突してバラバラと落ちるマンガといっしょに吹き飛ばされた。ううっと呻きながらも立ち上がろうとするご主人に、追い打ちをかけるように棚が倒れかかってあっという間に下敷きになってしまった。

 ごしゅじーん!叫んだつもりだったが掠れた声しか出ない。どうにかしなきゃ!助けられるのはわたししかいないんだから。しっかりするのよ、しいか。

「ふふふ、観念するんだな、小林くん、こちらのお嬢さんはわたしが預からせていただくよ、いやいや、大丈夫、手荒なことはしないさ、私は紳士だからね」

 そう言うと二十面相は後ろを振り返り、動けないわたしの腕を引き上げるように抱えるとその腕力で軽々とわたしを持ち上げる。いやっ、やめて、触らないで。さっきの夢の人がこの人?うそよ、うそだわ。あの人はわたしの優しい人、こんな人じゃない。

「やめろ!しいかちゃんに触るな。お前の思う通りになんかさせないぞ」
「まだ力が残っていたのか、ではとどめを刺してあげよう」

 そう言うとわたしを抱えた反対の腕でマントをひるがえすと、二十面相の手に先のとがったステッキが。わたしを抱えたままステッキをそらに投げて、握りをかえるようにして掴むと、ご主人に向かって振りかざした。

「では、小林くん、さようなら」

 ちょっとー、危ないー!絶体絶命―!誰かー!

(つづく)

 今日の国分寺は曇り。雨は降ると思うから、もう外置きの本は中に。

 今日流れているのはマイク・オールドフィールドの「チューブラーベルズⅡ」。Ⅱもなかなかいいですよ。
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by yoshizo1961 | 2014-04-22 14:47 | 創作 | Comments(0)

まどそら堂しいかちゃんの空想列車怪奇ミステリー編「怪人蝶」前編

 今日は、しいかちゃんシリーズの続編です。前編・中編・後編と、三日間に渡り長丁場となりますが、どうぞお付き合いください。

 
 このあいだからご主人の様子がおかしい。このあいだっていうのは、わたしが昆虫採集の話を持ち出したときのこと。遠い眼をして天井あたりを見つめてぼーっとしたり、話しかけてもうわの空だったり。変なこと聞いちゃったのかな・・・わたし。
 

 おさらいしとくね。わたしはしいか。まどそら堂のかんばん娘。って勝手に言っちゃってるけど。ときどきお店番してるだけなんだけど、結構信頼されちゃってる?今までの展開は「まどそら堂で恋を探そう」(2013/11/22ブログ)・「まどそら堂しいかちゃんの空想列車」前・後編を読んでね(2014/4/5.6ブログ)。共にカテゴリ・創作を参照。

 ほらほら、そんなところで寝てないの、しっぽ踏まれちゃうよって、ああ、これはお店のかんばん猫ちゃん。昼間はお店でブラブラしていて、夜はわたしのアパートに帰ってくる。自分で帰って来られるから楽チン。店に初めて来た日から、事件は始まっていた・・・あとから思えばなんだけどね。あのイケメン男子、考えてみればあいつがいけないんだわ。そうよ、きっと。あの後ちょっとした事件があったんだよね。やっぱり猫ちゃんを返そうとしてイケメン男子をご主人が探していたとき、なにか別のトラブルに巻き込まれちゃったみたい。詳しいことは教えてくれないけど、それからご主人、遠い眼をするようになったんだもん。

 最近ご主人の様子がおかしいのは、なにがあったかのかはわからないけれど、あの時のことが原因なんだと思う。わたしの第六感がそう言ってる。結構あたるんだから、わたしって。

「今日は夕方からお出かけなんですよね?」
「うん、近所で買取があるからね、しいかちゃんお店頼むね」
「はい・・・ところで、あの、言っていいのかどうかわからないんだけど、あー、あの、でも言いますね、実はこのあいだ、あのイケメン男子、いや、猫ちゃんを連れてきたあの男性のお客様ですけど・・・」
「ん?んん?あいつがどうしたって?」
うーん、やっぱり食いつきがすごいなぁ・・・いったいなにがあったんだろう?
「いや、実は二、三日前に見たんですよ、お店の前で・・・」
「えー?お店の前?来たの?」
「いえいえ、来たんじゃなくて、何て言うかな、そっと覗いてたっていうか・・・」
「んー、なにぃ、あんのやろー、調子こきやがってくっそー、んにゃろう!」
ちょっとちょっと、ご主人そんなキャラだっけ?ん、んにゃろうって?
「それで?それでどうしたの?」
「どうした・・・ってどうもしませんけど、そのまま行っちゃいましたから・・・」
「・・・・・・」

 うーん、やっぱ言わなきゃよかったかな・・・と、その時だった。お店の前にまたあのイケメン男子が!
「あー!あれれれー!」
「ん?どうした、しいかちゃ・・・」

 って言うか言わないかのうちにイケメン男子に気づいたご主人は、もの凄い速さで帳場からとびだしたかと思うと、いままで見たこともない勢いで走り出した。それを見たイケメンも、脱兎のごとく駆け出したから、わたしがドアまで駆け寄って二人を覗いたときには、もう坂の下の方まで走って行ってしまっていた。
 
 す、すごーい、早っ!走れるんだ、って変なところで感心しながら眼を凝らしてよく見ると、ご主人の手に昆虫採集の網が!えー、いつの間に!?持ってたっけ?んなワケないよね?えー?

「ふぅ、くっ、くっそー、と、取り逃した・・・」
まだはぁはぁ言いながら戻ってきたご主人の手には、もう網は握られていなかった・・・。うーん、よくわかんないなぁ・・・どういうこと?

「・・・しいかちゃん、お水一杯ちょうだい」
はいはい、って言いながら差し出したお水を一息で飲み干したご主人は、コップを握りしめたままゆっくりとこちらを向いて、こう言った。

「しいかちゃん、信じられないかもしれないけど、これから僕が言うことを誰にも言わないって約束してくれる・・・かな?」
へっ?なになに?もちろん、誰にも言わないっていうけど、自信ないかも。でも…一応頷いてみせる。
「じつは・・・僕は・・・ぼくは・・・いや、やっぱりやめとこう」

 えー、ちょっと待ってよ、そんなのなしだよー、気になるじゃん!ちょっとー!一度いいかけたことはちゃんと言おうよー!もー!・・・っと、その時だった。お店の明かりがまたたきながら、風に揺れるように消えた。そしてまだ夕刻の、暗闇にはまだ早い時刻、薄ぼんやりとした夕闇に支配されたお店に、どこからともなく、ひとひらの蝶が。

「しいかちゃん、見ちゃだめだ!見てはいけない!」

 ご主人の声は聞こえたわよ。でも、もう、遅かった。見たこともない極彩色の蝶が優雅に舞いながら、極微小のきらきらした鱗粉をまき散らす。わたしの鼻腔に吸い込まれた鱗粉が、わたしの意識を奪おうとしているのがわかる。だめ、だめよ、・・・だめ・・・。

 急に視界が開けて辺りに光が渦巻く。閉じかけた眼が自分の意思ではなく大きく開く。蝶が、極彩色の蝶が。だめ、見ちゃだめ、でも眼が閉じられない。意識が奪われてゆく。蝶が、蝶が。意識が飛ぶ前に、一瞬、網を振りかざすご主人の姿が見えた気がした・・・。

(つづく)


 今日の国分寺は曇り。まだ雨はもっていますが。このまま降らないで・・・。

 今日流れているのは、イエスの「トーク」です。
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by yoshizo1961 | 2014-04-21 14:40 | 創作 | Comments(0)

「まどそら堂しいかちゃんの空想列車」後編

 
 (昨日から続き)
 
 小さな穴を覗いてもう、びっくり!だって箱の中から小さなおめめがこちらをのぞいているんだもん。
 
 「なぁぁぉ」
 えーっ、そのなき声って、ねこ?ねこちゃん?やだー、もー、かわいいー、どうしてなの?
 
 「んなぁぁぉ」
 狂おしく泣くので、もう我慢できなくなっちゃって箱を開けちゃった。やーん、かわいいー!ちっちゃーい!そっかー、ご主人、ねこちゃん飼うんだね、きっと。いいなー。
 
 「ただいまー」
 いやいや、わるかったねー、って言いながらご主人が帰ってきた。
 
「ん?どうしたの、そのねこ」
 肩にかけていた虫かごと水筒を下ろしながらご主人が聞く。うーん、そう聞かれても・・・だって飼うんでしょ、ねこちゃん。って顔してご主人を覗き込んだけど、どうも違う感じ・・・。箱開けちゃってまずかったかな・・・。
 
 「さっきイケメンのお客様が、あっ、いやいや、ついさっき来られた男性のお客様が置いていったんですけど・・・開けちゃってまずかった・・・ですか?」
 「うん?それはいいけど、あっ、ああっ、それって若くてかっこいい感じのお兄ちゃんが持ってきた?」
 「はっ、はい、それはもうイケメンの、あっ、まぁ、そんな感じの人です・・・」
  
 すると、うーん、と唸ったまま、ご主人固まっちゃった。何で?
 
 「あのさー、そのねこ、押し付けられちゃったんだよね、たぶん。きっともう来ないよ、その彼」
 「・・・押し付けって、預かったとかじゃなくて?よくわかんないんだけど・・・」

 だって、だから?
 
 「少し前にさ、ねこの話で盛り上がったんだよね、彼と。それでね、ご主人、ねこ飼わないかって突然言い出してさ、実は拾ってきちゃったらしいんだよね、そのねこ。ダメだよ、飼えないよって言ったんだけどなぁ。持って来ちゃったんだー、はぁー、困ったな、どうする?」

 いやいや、どうするって言われても・・・。
 
 「家に連れて帰るわけにもいかないし・・・しいかちゃん、飼う?」
 「えー、だって無理ですよー、突然言われても・・・まぁ、アパートはペットOKですけど」って言ったら、ご主人の目がキラッと!やばっ、言わなきゃよかった!
 「しいかちゃんのアパートって、ペットOKなんだ、ふーん、じゃあ、頼もうかな」
 「いやいや、ちょっと待ってくださいよぉ、ねこ飼ったことないしぃ、だいたいなんでわたしが飼わなきゃいけないんだか意味わかんないし・・・」

 結局ご主人に押し切られて、わたしのアパートで飼うことになっちゃった。といっても昼間はまどそら堂で預かってもらうって条件で。看板ねこだね、ハハハハハってご主人笑ってたけど、おいおい、意味わかんないよ、まったく。まあ、でもご主人の言うとおり何かの縁っていうのかな、そんなかもね。けっこうかわいいし、こ・い・つ。

 それから数年。かわいかったのも子ねこちゃんだった頃までで、昼間はまどそら堂でぶらぶらして寝てばっかりいるから、最近はどうもひねくれた眼になってる。それでもお店では看板猫として愛想振りまいてるみたい。結局あのイケメン男子もバックれちゃったらしいけど、わたしは、あれからたびたびまどそら堂でお店番するようになった。あいかわらずご主人は例の彼氏のこととか教えてくれないけど。おまじないあるなら教えてよって、いつも聞くんだけど笑ってるだけ。んー、いつか聞き出してやるぞー。

 結局ミステリーでもなんでもなかったけど、そういうわけでお店の看板娘(それは、わ・た・し!)と看板猫(名前はまだ無いけど)がお目見えです!今後共よろしくねー!

 「そういえばあのとき昆虫採集に行ってたんですか?」
 「ん?あのときって?」
 「ねこちゃんが初めてお店にきたときですよー、憶えてませんか?」
 「あっ、あー、あのときね・・・」

それからご主人黙っちゃって変な感じになっちゃった。なんかわるいこと聞いちゃったかな?

 ・・・まさかそれからほんとにミステリーが始まるなんて、そのときはこれっぽっちも思わなかった。ご主人、まどそら猫、例の彼氏とイケメン男子、そしてわたし。昆虫採集がキーワードの超絶ミステリーの幕が、いま上がろうとしている・・・というわけで、「まどそら堂しいかちゃんの空想列車・ミステリー編」近日公開を待て!ポッポー!!

                                       おわり


 今日の国分寺は晴れたり曇ったり。そして雨降ったり。少し寒いね。そういえば今日は日曜日だったか。道理でカップルのお客様が多いのかな・・・。

 今日流れているのは押尾コータロー。雨の音に合っています。
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by yoshizo1961 | 2014-04-06 15:28 | 創作 | Comments(0)

「まどそら堂しいかちゃんの空想列車」前編

 今日のお話は、2行目から店主の空想話ですので。
 
あー、今日もいい天気。だからこんなに早く目が覚めたのかしら。こんな日はきっといいことがあるわね。たぶん。
 
 えっ?わたし?わたしは、しいか。詩歌って書くけど、いつもはひらがなで。漢字だとなんか意味ありすぎでちょっとね。ほら憶えてない?「まどそら堂で恋をさがそう」(2013・11・22参照)でヒロイン役(えへっ)で出てたでしょ?そう、あのときの女の子。
 
 あれからよくまどそら堂には顔を出すようになっちゃった。例の彼氏のこととかご主人に相談したりするんだけど、なぜか笑ってるだけでちゃんと聞いてくれない。いいけど、べつに(ぷんぷん)。きっとまた逢える・・・って信じてるから。そういえば彼を呼び出すおまじないがあるとかないとか・・・あぁ、今日もまどそら堂に行っちゃうのかな、結局。

 「こんにちはー」
 「こんにちはー。あぁ、しいかちゃん!いいとこ来たねー」

 うん?なんだか機嫌良さそう、今日のご主人。いいことでもあったかな?
 
 「しいかちゃん、今日なんか用事ある?もしヒマだったら店番お願いできない?だめ?」
 「えっ?無理、無理。無理ですよー、突然言われても・・・」
 「えー、頼むよー、他に頼める人いないんだよねー、ねっ?」
 「うーん・・・、だって今日こんな格好だし、お化粧もちゃんとしてないし」
 「何言ってんの、いつもきれいだよ、特にき・ょ・う・は」
 「またー、そんなこと言って・・・うーん、まぁ、少しならいいかな・・・」
 「ホント?よっしゃー!はい、決まり!」
 
 そう言って段取りだけ手短に説明しただけで、急いで出かけちゃったご主人。肩に虫かごと水筒、手には虫取り網・・・ってまさか今から昆虫採集じゃないよね?そんな趣味聞いてないし・・・。まぁ、いいか。
 とりあえずレジの前に立って店内を見回す。へぇー、こんな感じなんだ、ちょっと違う風景・・・。お店が違って見える・・・そうよね、お客じゃないんだもん、今日のわたし。でもお客様が来たらちゃんとできるかしら?レジはコンビニでバイトしてたからオッケーだけど、いつも笑顔って苦手。大きな声であいさつしなさいってご主人言ってたけど、ご主人だってぼそぼそ言ってるよね、いつも。

 「こんちわー」
 「イッ、いらっしゃいましぇ、い、いや、あの」
 「へっ?なっ、なに?」
「い、いえ、なんでも・・・ありません。いらっしゃいませー」

 あー、言えた言えた、ほんと、コンビニの時も接客だけは苦手だったんだよね。わたしに店番させるほうが悪いっての。
 
 「あのー、○○の××って本ありますかね?」
 「えっ?○○の△△ですか?えっと、聞いたことありません・・・」
 「△△じゃなくて××なんだけど・・・。まぁいいや、ご主人は?」
 「今日はいないです、わたしが店番です・・・」
 「あっ、そう・・・」

 あー、帰っちゃった。だから無理って言ったじゃない、バックヤードでパソコン・データ打ちくらいしかできないもんね、わたし。ん?そういえばトイレってどこ?バックヤードかな、このドアの向こうだよねたぶん、うーん、せまいなー、よいしょっと。えー!バックヤードじゃなくていきなりトイレだったの!んもぅ、言ってよねー最初に。ってことは、バックヤードはないってこと?ふーん、ほんとに極セマだったんだね。

 それにしてもお客様来ないわね、あぁ、もうこんな時間なんだ、はぁー、おなか空いてきちゃった。そういえばここにあるパン食べていいって言ってたっけ、どれどれ、おおっー、キイニョンのクリームパン!わぁー、チョココロネもある!大好物なんだ、わたし。いっただきまーす!(モグモグ)んっー、おいしい。もっと食べちゃお、(モグモグ・・・)
 
 「こんにちは」
 「えっ?あっ、はい、(モグモグ)いっ、いらっしゃいませー」

 うー、タイミングわる・・・。なんとか飲み込んで顔をあげると、えーっ!イ、イケメン男子!しかも、かなりタイプ!へー、いるんだね、国分寺にも。こんなイケメンが。
 
 「あの」
 「は、はい、(スマイル、スマイルっと)ニコっー・・・なにか・・・?」
 「この箱、預かってもらえますか」
 「箱?あぁ、買取ですか?あっ、あの、わたしバイトなんでダメなんですよ・・・」
 「買取じゃないです、それにご主人にはもう話は通ってますから」
 
 そのイケメン男子、そう言うとわたしの眼をじっとみつめてくるんだもん、無理ですー、わたし眼をふせちゃった。
 
 「えー、でも何も聞いてないしー、どうしようかな・・・」

 って、ゆっくり顔をあげたらイケメン男子の姿はどこにもなかったから、いやーん、また例のパターン?って思ったけど床に箱が置いてあったから、帰っちゃったのね。たぶん。

 まぁ、いいか。話は通ってるって言ってたし。ナンだろね、この箱。床に置いて行ったままの箱をそっと両手で持ち上げようとした時、えー、なんか動いた?もう一度そっと両手で持ち上げる。ん?やっぱり中のものが動いた!えー、なにこれ?ま、まさか・・・時限爆弾?んもー、やめてよね、ほんと、わたしこういうのダメなタイプなんだからぁ!

 でもこの展開ってなんかあれじゃない、あのビブリア古書堂の栞子さんとか・・・ミステリーっぽくなってきてない?「古書まどそら堂しいかちゃんの事件手帖」って感じ?ってこと考えても仕方ないわね、すぐ脱線しちゃうの、わたしって。ご主人早く帰ってこないかな。とりあえずここに置いておけばいいか・・・ん?穴?なにこれ?

 またそぉーっと両手で持ち上げて、箱の側面にあった小さな穴に顔を近づけて中を覗いて見る・・・そぉっーと。ん?んんん?う、うぅ、ううっー!な、なにっ?何なのよーーー、これっー!?

                                     (つづく)

 今日の国分寺は晴れのち曇りのち雨。いままた晴れ。続きはまた明日・・・。

 今日流れているのは日本のロック。カルメン・マキ&オズ、紫、Bow Wowなどです。
 
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by yoshizo1961 | 2014-04-05 13:37 | 創作 | Comments(0)