2017年 10月 12日 ( 1 )

絵を描いていますか

 ある日の閉店時間を回った時間帯、そろそろ片づけようかと思いつつも、うだうだしていた夜。

 ちょっとけだるそうな感じで女の子が入ってきた。いや、女の子っていっても二十歳前後な。大きなビニール製の袋や何やら買い物袋を抱え、なんだかアンニュイな雰囲気を漂わせ。お店の隅に荷物をぞんざいに置いて、棚を見つめる。

 この子が帰ったら片づけよう。そう決めて事務仕事を進めつつ見守る。けっこうしっかり本を見ていた彼女、ヴィンテージ雑誌を1冊買ってくれた。帳場の前で伏し目がちに雑誌を差し出すそのしぐさがどこかめんどくさそうで、機嫌でも悪いのかなと。

 でもよくよく見れば、ていうかどうみても美術系にしか見えず、武蔵美か?と聞いてみると、そうじゃなくて浪人中だという。近所の美術予備校の生徒だと。別に不機嫌なわけでもなく、美術系特有の斜に構えた雰囲気バリバリなだけだった。

 来年受験だね。自信はあるのか?と問えば、そうでもないと。いや、絵のスキルがどうのじゃなくて、自分の表現ができているか自信がないのだと言う。でも美大受験なんてスキルを見るしかないじゃないかって言うと、そんなことじゃなくて自分の絵が描けているかが問題なんだってムキになって言う。頭の中は絵のことでいっぱいだ。自分も美術系だったと言うと、すかさず今も描いているのか?と聞かれグサッとくる。帳場に掛けている絵を見せると、面白いって笑ってくれる。

 彼女は普通に美大系の受験生なんだと思うけど、大学に入ることが目的で勉強しているわけでもなく(もちろんそうでもあるんだけど)、自分が描きたいもの、描きたいという表現欲求や衝動について、毎日朝から晩まで考え続けているんだって顔をしてた。だから何を見ても、誰かと話をしていてもご飯を食べていても、美術のことばかり考えているんだろうなと。

 鼻筋の通ったかわいい子で、同世代の子のようにおしゃれすればアイドル系にも見える感じの子だったが、髪の毛はボサボサ、手のひらは絵の具だらけで、ずた袋を引きずるようにしてうつむき気味で帰って行った。また来いよって言うと、うんって。でも、もう来そうもないかな。そんな気もする。

 うちに帰って東村アキコの「かくかくしかじか」を再読する。あの子とは違うけど、なんだかしんみりした。

 今日の国分寺は晴れ。明日はほろ酔い夜話第十夜があります。

 今日流れているのは、押尾コータロー、クィ―ンです。
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by yoshizo1961 | 2017-10-12 16:18 | 美術あれこれ | Comments(3)