台湾の作家、呉明益の『歩道橋の魔術師』(白水社/天野健太郎訳)を読了。原題は『天橋上的魔術師』。
台湾からのお客様で、まどそら堂でトークイベントをしてくださった素素さんのおすすめ本なのであった。おすすめ通り、心に染み入る小説だった。
大まかな筋は、中華商場という住居と商業施設がいっしょになった建物を舞台にして、そこで暮らす子供たちが大人になってから当時のエピソードを回想するという話で、商場の各棟をつなぐ歩道橋で商売をしている魔術師を絡めて話が進む。
魔術師は、「本当」とは何かを教えてくれるけれども、子どもには理解できないし、大人になってもよくわからないことなのだ。けれども魔術師の言うこととそのマジックは「本当」だったりするので読んでいると不思議な気分になる。
小説の構成自体もクールだ。短編の連作というスタイルで、各編に魔術師が登場する。ただ魔術師は主人公であったり、ほんの少し触れられるだけだったり、狂言回しであったりする。けれども小説の核となっている。その核は小説の本質と同義で、そして「本当」とは何かについての示唆を残す。文章もクール。翻訳がいいのかもしれない。どことなく村上春樹を感じさせなくもない。
魔術師が操る黒い小人のマジックを僕もどこかで見たことがある。都心の繁華街の道端だったか、あるいは香港だったかはっきりしないが、実際に踊る紙の黒い小人。たしかにマジックだったけれど、その残像が重なって、小説がリアルになった。
もし、もしだが、小説が書けるならこんな話が書けたらいいなと思う。いい小説だった。おすすめです。
今日の国分寺は晴れ。寒いですな。
今日流れているのは、おおたか静流です。