あのときの彼は

 ほんと人生はどう転ぶかわからない・・・いやそんな大げさな話ではないけれども。ありきたりな言い方だけど、明日のことなどわからないものなのだ。

 ちびまど時代の話。近所の大学の学生さんがよくお店にやって来て、しょげた表情で本を見つめていた。話を聞くと、就活がうまくいかないという。もう卒業だというのに就職先がみつからない。というより自分自身どうしたらいいかわからないと。

 また、本が好きなので本屋さんに勤めたいとも言う。もしこちらで募集していたら働かせてもらえないだろうか、とも。いやいや、うちは募集どころか続けていくだけでも必死状態なので・・・というと悲しそうに笑う。

 同じ頃、同学年の同じ大学の学生さんが溌溂とした表情でお店にやってきた。就職が内定したという。パリッとしたリクルートスーツをまとって、自信に満ち溢れている。まだ決まらない人も多いのに、よかったねというと、決まらないのは努力が足りないからだと持論を展開する。さっきの学生さんとは真逆。

 そして卒業前の年の暮れ、まだ就職が決まらない彼がお店にやって来て、同じようなことを言う。いっそのこと、就職というより旅に出てみたらと、沢木耕太郎の『深夜特急』を勧めると、それも無理そうかなという表情のまま帰って行った。その時買ってくれたのはつげ義春の『石を売る』が入っている本だった。それはいくらなんでもなぁ・・・とは思ったが。

 さてその後、国分寺マンションに移転してしばらくした頃、早々に就職が決まってよろこんでいた学生さんが久し振りにやって来た。疲れ切った表情で愚痴を言う。たしかにきついのだろうなぁ。そう簡単なことばかりじゃないよね。そんな話をして帰って行った。

 それから2年、あのしょげた表情だった学生さんがフラッとお店に入ってきた。顔を見てすぐわかったが、印象はまるで違っている。久し振りだねというと、覚えていないかと思っていたと。背筋がピンと伸びてしっかりとした意志すら感じる。どうしているの?と聞くと、あれから勉強して司書の資格を取り、いまは某大学の図書館で働いているという。

 そりゃすげー、よかったなあと言うと嬉しそうに笑う。本に関わる仕事に就きたくて、と。うちで働いてなくてよかったなあと言うと、いやー、とまた笑うのだった。ほんと、どうなるのかなんてわからないもんだ。背を丸めて五里霧中なオーラを出しまくっていた彼が、あんなにしっかりとしたお兄さんになっているんだから。うれしそうな表情でSF本を1冊買って帰って行った。

 なんだか感慨深い。おれもしっかりしなきゃと思ったよ。

 今日の国分寺は晴れ。

 今日流れているのは、キース・ジャレットです。
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by yoshizo1961 | 2016-10-24 14:51 | お店あれこれ | Comments(0)
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