80年代初頭は、西武の時代であった。といっても、プロ野球の話じゃなくて(笑)。西武が世の中の文化的雰囲気をリードしていた時代があった。
池袋や渋谷の西武のここかしこに、糸井重里のコピーと、山口はるみのポスター。「不思議、大好き。」に踊らされて、テクノカットで歩く。もうそんな若者だらけであった。ややあざとい戦略が見え隠れする広告代理店風雰囲気に呑まれて、何でもかんでもあたまに「ニュー」をつければ、カルチャーなんだと思っていた時代。 しかし西武はアートに関しては本気だった(と、思う)。ちゃんと世界の最先端のアートを紹介し続けていたし、その発信地としての場所も持っていた。百貨店というのはお客を呼び込むために、なるべく階上のスペースで人気のある展覧会を催す。そうすれば展覧会を見に来た客は、帰りがけに階下の売り場を回ってついでに買い物をする。けれども集客が目的の展覧会が普通の百貨店の中で、西武はちょっとばかり違っていた。 池袋の西武の最上階に西武美術館があった80年代初頭。アートの世界はニューペインティング一色で、西武美術館もイタリアやドイツ、ニューヨークなどのニューペインティングの作家を紹介して、現代美術とはこういうものだ的な展覧会を続けていた。まだまだ現代美術がそんなに理解されていない頃の話だから、一般客にとって印象派みたいな絵とは真逆の絵画を観に行くのは、そんなになかったんじゃないかと思われる。だから集客というより、現代美術一筋の意志のもとに展開していたんだと思う。 そういった気概が感じられた西武美術館の横に、画集や美術本と現代音楽を扱う「アール・ヴィヴァン」というショップがあった。ブライアン・イーノやテリー・ライリーなどのミニマル系がいつも流れていて、本を売っているのに照明は暗く、静謐な空間演出がなされた店内では、これまたそれらしいアーティスト系の人々が画集をめくっていたりした。あの頃ってまだCDじゃなかった?(よく覚えていないが、カセットテープとかレコードだったような) まあ、とにかく高価な画集ばかりで買うこともできず、ひたすら眺めるだけだったが、最新のアートニューズやそのたぐいの最新のアート誌がいつもあったのでチェックしたり(現在は大きな書店や美術館や大学の図書館では普通に閲覧できるが、当時は海外のアート雑誌を読めるのはアール・ヴィヴァンくらいしかなかった)。 あのアール・ヴィヴァンの雰囲気って、よかったなーと思う。うちのお店ではアート系の本や画集を意識的に置いていないので、ヴィジュアル的にあの雰囲気を作るのは無理そうだが。 お店にあるその名残が、西武美術館が発行していた月刊誌の「アールヴィヴァン」。美術館の会員になると毎月送られてきて、美術の情報というより、当時は知的スノビズムのために読んでいたような気がする。 今でもお店でブライアン・イーノをかけるとき、ふとあの空間を思い出す時がある。たまにはあの静謐感をうちのお店でも演出してみたいけど(無理?)。 今日の国分寺は晴れ。暑いのはあとちょっと。なんとかしのぎましょう。おお、それからお知らせです。明日23日(土)は午後5時までの営業です。脱走しますので、御用の向きは5時までによろしく!日曜日は通常営業です。 今日流れているのは、YASUAKI SHIMIZU and SAXOPONETTESの「 BACH BOX」です。
by yoshizo1961
| 2014-08-22 15:04
| 美術あれこれ
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Comments(8)
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シアヤコバヤ
at 2018-09-03 20:47
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うちのトーチャンがそのころ、富士見台に住んでいて、多感な時期(小~高校生時代)にいかに池袋西武のセゾン文化に影響を受けたか、こないだ熱く語ってました。そのせいで道を踏み外したとか何とか。
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yoshizo1961 at 2018-09-05 11:52
シアヤコバヤさま
コメントありがとうございます。80年代の西武はすごかったですね。美術館まで上がっていくとき、その下のブックセンターにも寄り知的スノッブを満たし、美術館周辺のそこかしこに落ちているアートやカルチャーの残滓を拾って歩くという感じでした。その辺にいる人たち(クリエーターらしき人)の姿や持ち物迄気にしたり、そういったアート系の雰囲気に敏感な若者がたくさんいた気がします。みんなおじさんおばさんになってしまいましたが(笑)。きっと今もそんなスポットは都内にはあるんでしょうかね。
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ree
at 2022-08-19 21:21
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プレゼントにしたり、自分の部屋に飾るための版画とかリトとかを探すのに、池袋西武のアート売り場は良質で、しかも20代の若造の私にとってお手頃でした。ほかのデパートもがんばってはいたものの、西武のセンスはやっぱり良かった気がします。今そういうアートを探そうと思っても売り場さえ見当たらない。余裕のない時代になったのでしょうか…。
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yoshizo1961 at 2022-08-20 11:52
reeさま
コメントありがとうございます。当時の熱気みたいなものが懐かしいですね。今のように何でも情報でもモノでもネットで探せて何でも買える時代とは真逆で、その場に行ってその場所の磁場みたいなものに感応して熱くなるっていうことが大事だったというか・・・。 まだまだ未来が満ち溢れているように感じた時代でした。
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DRAKO(ドラーコ)
at 2023-04-11 12:03
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アール・ヴィヴァン!ひたすら懐かしい!池袋西武12階に(美術館ともども)在ったので、「あのエスカレーターを乗り継いで、最上階に登って行く感じ」が良かったんですよ。それだけで「高揚感が演出される」と言うか…「ネットが未発達の時代の熱気」は今の若い子には判らないだろうな…(^_^;)
開店は1975年9月、西武美術館の開館と同時だったと思います。私は大分県から上京した1976年4月頃に早速(!)行ったと思います。ここで現代音楽を担当していた芦川聡氏(作曲もしていました)と話してレコードを買ったりしていました。芦川氏とは、後に同じコンサート・シリーズで作曲した作品を発表する(そのときに吉松隆氏も実質的なデビュー作を発表しました)関係ともなりました(それほど親しくなったわけではありませんでした)。'80年代の初めのある日、芦川氏との共通の知人から、「芦川くんが交通事故で亡くなった」という電話かかってきたときには、相当ショックを受けました。
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yoshizo1961 at 2024-03-11 11:45
> DRAKO(ドラーコ)さん
コメントありがとうございます。お返事が遅れ申し訳ありません。 たしかに最上階までのエスカレーターは長かったけど、高揚感はありましたね。知的欲求が満たされる場所に行くワクワク感が楽しかったです。 いまの時代だったらスマホで充足してしまうのかもしれませんね・・・。 でもやっぱり今でもリアルな体感が大事だと思います。記憶にも残りますし。
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yoshizo1961 at 2024-03-11 11:59
vacantさん、コメントありがとうございます。
一般客だったので、運営の方々については知る由もなかったですが、そうだったんですね。世の中、誰にも様々な人生があるかと思いますが、予想もつかない現実だったりすると言葉を失くします。 もう何十年も経っているのに、今でも池袋に行けばアール・ヴィヴァンがあるような気がします。
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