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梨木香歩「雪と珊瑚と」読んでみた

 梨木香歩といえば、「西の魔女が死んだ」。読後に余韻の残る児童小説。児童ものといってもその境界を感じさせない小説ではあった。さてさて、今回は名作と名高い、彼女の「雪と珊瑚と」を読んでみた。

 雪と珊瑚は人の名前だ。まだ赤ん坊の雪と、雪を育てる母、珊瑚と。珊瑚は21歳の若いシングルマザー。小さな雪を育てるのに精一杯な、しかし前を向いて歩く子(そう、まだ子どもだよ、21歳は)。けれども人に言えないくらいのトラウマも抱えている。彼女自身の生い立ちやら、これまでの成り行きやら。ありがちな設定ではありそうだがそうでもなく、梨木香歩ならではの視点が、しっかり据えられている。

 どう読むべきなのかな、と。既に読んだ後だけれども。さらーっと読んでいけば、最後のページで涙腺が緩むだろうな。どうとらえるべきか、どう考えるべきかと、珊瑚に成り代わって読んでいけば?それでも涙腺は緩みそうだ。

 梨木香歩の小説は、特別なのだろう。娯楽としてでもなく、といって、考え込むためのテキストでもなく、かといって単なる小説とも言えない小説。上手く言えない。それでもつい引きずられて読んでしまうのは、何か、なにかあるんじゃないかと引きずられてしまう、何だかわからない魅力のせい?

 ただ、珊瑚の言葉使いに、どうも21歳らしからぬところも感じ、他の登場人物の言葉も一様な思考言葉に感じるのは、テーマを浮き彫りにするための平坦さなのかなとも思えた。各自のキャラがもっと饒舌に描写されたら、もっと情動的に描かれていたら、テーマが薄れ、違う小説になってしまうからか。けれども、淡々と進行するように見え、波風の立ち方もどこか美しいのは梨木香歩だからなのかな。

 くららさんの存在がこの小説の背骨かもしれない。といっても、小説としてのきもは、やはり最後のページの雪であろう。要は、人はどうしてもここで泣けるのであるから。小説として成り立たせる要素というか、スキルというかそういうものであったとしても。話の軸になる料理の描写も、雪の言葉も、珊瑚の思いもみんな、梨木香歩なのですな。どう読んでも。「雪と珊瑚と」、おすすめです。

 今日の国分寺は晴れ、暑くなってきた。

 今日流れているのは、ジェネシス。好きでしたか?

 
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by yoshizo1961 | 2014-07-01 16:59 | 本あれこれ | Comments(0)
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