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まどそら堂しいかちゃんの空想列車怪奇ミステリー編「怪人蝶」中編

 (昨日から続き)


 ここはどこ?あなたはだれ?・・・ってどこかで聞いたようなせりふ・・・って言ってる場合?まだ大丈夫、まだ意識があるわ、ほんの少し、でももう飛んじゃいそう・・・どこかに、どこかに掴まらなきゃ・・・落ちてしまう・・・。蝶が、極彩色に輝く蝶が、わたしの視覚を奪ったままどこか知らないところに連れていこうとしている、ああ、でも何故?どういうことなの?ほんとにほんとうに意識が途切れそうになった瞬間、わたしの右手に何かが触れる、それは優しいあの人の手、あの人に連れられて行くのならどんなところでも怖くない・・・。

 うーん、ここは、ここはどこ?さっきといっしょ?同じ場面をループしてる?どうなっちゃてるの、でも気持ちがいい、風が吹いてる、草原を走ってる、あの人と。あの人?わたしが先に行くのよ、あははは。もぅ、あははははは。つかまえて、わたしを、わたしをつかまえて。あははははは。つばの広い帽子を大空に向けて投げるわ。あなたが取ってね、この大空にそのたくましい腕を伸ばして、わたしが投げた帽子を。あははははは。あの森まで追いかけっこよ、追いつけるもんですか、だってわたし、お空も飛べるのよ、あはははは。つかまえて。あはははは。あはははは。

「しいかちゃん!行っちゃだめだ!しいかちゃん!」

 ご主人の声?なに言ってるの?なんでご主人がいるの?今いいところなのに邪魔しないで、今、いま、いま?だって今あの人と、あの人?誰だっけ?

「しいかちゃん!眼を覚ませ!しっかりしろ!」

 何だかご主人が何か言ってるみたい。ん?痛っ、痛いわよ、ちょっとぉ、お尻叩いたわね!うん?痛いわよって、痛ったー!・・・って、ん?え?なに?急に、いきなり意識が戻ってきたわ。どうなってるのよ、いったい!

 ご主人がわたしのお尻を思いっきり叩きながら誰かと向き合ってる。わたしたちの周りに本が散乱して足の踏み場もない状態、さっきまで格闘していたみたいに肩でぜいぜい息しながら左手に網を持ち、右手でまだわたしのお尻を叩いてるご主人、もう、痛いって!もう意識戻ってます!いったいどうなってんの、この人誰?

 その時ご主人と睨み合っていたそいつがわたしに視線を移した。ああ!あのイケメン!あのイケメン男子!・・・こいついったい何者?

「意識を取り戻した?ちぇ、もう少しだったのに」

 ちょっと、ちょっと、なに言ってんのよ、あんた一体何者なの?このしいかちゃんに何しようってのよ?・・・気持ちはそう毒づいてるんだけど、体がしびれて上手く動けない。それにさっきの蝶は、どこにいったの?っていうかさっき見た夢?の中の人って誰だっけ?

「それは俺さ、一緒に追っかけっこしただろ、ははははは」

 えー、なんでわたしが考えてることがわかるの?っていうか、さっきの人はイケメン男子?えー、そんなー。

「しいかちゃん、じっとしてろ、こいつの話も聞いちゃだめだ」

 ご主人はそう言うと整えた息を溜めるようにかがんで、わたしの前に出る。わたしはまだ動けない。

「ふん、小林くん、いや、小林少年、古本屋の店主にばけてどうするつもりなのかな?いつの時代でも君は私の邪魔ばかりしてくれるけど、今度はもう許さないよ」

 イケメン男子がそう言うか言わないかのうちに、ご主人飛びかかって行っちゃった。左手に昆虫採集用の網をまだ握りしめているから、飛びかかってもうまく捕まえられない。っていうか、その網何なの?あー、でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!どうにかしなくちゃ、まだからだが動かない!あー、ご主人やられっぱなし!力の差がありすぎよ、あっ、網がイケメンの頭にすぽっとはまったわ、イケメン苦しそう、そこよそこだわ、やっちゃえー!

 頭を押えながらもがきだしたイケメン男子。見る見るうちに表情が変わっていく。苦しむ声が何かを囁いている、えー、なんか黒い煙がイケメン男子の周りに立ち込めだした。イケメン男子のかたちが変わっていく、それなにー?黒マントに黒マスク、バットマンのなりそこないみたいな恰好になっちゃった!いつの間にかご主人の網も引きちぎられて棒しか残っていない。

「ふふふ、小林少年、私に勝てると思っているのかい?時代が変わってもいつまでも子供だね、君は。君がこの怪人二十面相に勝てるわけないだろう!」

 っていうか、二十面相って、ちょっと待ってよ、これってなんかのお芝居?意味わかんないんですけど。ご主人は小林少年なのね、はいはい。って言ってる場合かー!

 棒を投げ捨てると、ご主人思いっきり体ごと二十面相?にぶつかって行った。けれど鋼みたいに固くなったボディを見せびらかすように二十面相が体をひねると、いきおい余ったご主人はビンテージコミックスの棚に激突してバラバラと落ちるマンガといっしょに吹き飛ばされた。ううっと呻きながらも立ち上がろうとするご主人に、追い打ちをかけるように棚が倒れかかってあっという間に下敷きになってしまった。

 ごしゅじーん!叫んだつもりだったが掠れた声しか出ない。どうにかしなきゃ!助けられるのはわたししかいないんだから。しっかりするのよ、しいか。

「ふふふ、観念するんだな、小林くん、こちらのお嬢さんはわたしが預からせていただくよ、いやいや、大丈夫、手荒なことはしないさ、私は紳士だからね」

 そう言うと二十面相は後ろを振り返り、動けないわたしの腕を引き上げるように抱えるとその腕力で軽々とわたしを持ち上げる。いやっ、やめて、触らないで。さっきの夢の人がこの人?うそよ、うそだわ。あの人はわたしの優しい人、こんな人じゃない。

「やめろ!しいかちゃんに触るな。お前の思う通りになんかさせないぞ」
「まだ力が残っていたのか、ではとどめを刺してあげよう」

 そう言うとわたしを抱えた反対の腕でマントをひるがえすと、二十面相の手に先のとがったステッキが。わたしを抱えたままステッキをそらに投げて、握りをかえるようにして掴むと、ご主人に向かって振りかざした。

「では、小林くん、さようなら」

 ちょっとー、危ないー!絶体絶命―!誰かー!

(つづく)

 今日の国分寺は曇り。雨は降ると思うから、もう外置きの本は中に。

 今日流れているのはマイク・オールドフィールドの「チューブラーベルズⅡ」。Ⅱもなかなかいいですよ。
まどそら堂しいかちゃんの空想列車怪奇ミステリー編「怪人蝶」中編_b0304265_13323634.jpg

by yoshizo1961 | 2014-04-22 14:47 | 創作 | Comments(0)
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